雪が降ると思い出す、笑っちゃう出来事。
トラック野郎現役時代、同じ職場に、小野寺さんという60歳のオヤジさんがいた。
当時俺は、25歳くらいだから、おふくろよりも年上だ。
そんな歳にもかかわらず、俺がいたハードワークの会社に、
長年勤めているわけだから、とんでもないバケモノだ。
やはり、ご多分に漏れず、丸太のような腕をして、60歳とは思えない体格。
みんな、「小野寺のおとうさん」と呼んでいた。
ちょっと話は変わって、トラックは本来、
荷物を積んでバランスが取れるように作られている。
と、思う。
特にトレーラーは、その性質が顕著だ。
だから、空車時の雪道走行は、重量バランスが悪くて、とにかくおっかない。
何回も書いているが、荷台がグワーッと横滑りしてきて、
ヘッドと荷台がくの字に折れ曲がってしまう、ジャックナイフ現象も恐いが、
それにも増して、上り坂の雪道や凍結路面にめっぽう弱い。
荷台が軽すぎて、スリップしやすいのだ。
それなのに、空車で秋田にベニアを積みに行く仕事が、結構な頻度であった。
ただでさえ、空車で雪道を走るのはイヤなのに、
秋田に行くには、途中、アイスバーンが多いから余計に緊張する。
話は戻って、ある雪の日に、
いつものように、空車で秋田に行く仕事に当たってしまった。
いつも、秋田に行くには、国道48号線という峠道を通って山形に入り、
そこから秋田に向かって北上していく。
その48号線の宮城と山形の県境付近に、勾配はさほどきつくないんだけど、
ゆるーい勾配がずーっと続く、イヤーな坂道がある。
そして、その坂道を登り切ったところに、
全長3キロほどの「関山トンネル」というのがあり、そのトンネルを抜けると下り坂になる。
その日は、無線仲間から、関山トンネル付近は、雪が凄くて、
トレーラーはチェーンが無いとムリっぽいっていうレポートをもらっていた。
なので、峠道の手前にある、大きめのチェーン脱着所で、
チェーンを巻くことにした。
俺は、普通の鉄チェーンの他に、
軽くて巻くのがカンタンな、ワイヤー製のチェーンも積んでいた。
鉄のチェーンは、とにかく重いし、面倒くさいので、
お手軽なワイヤーチェーンを巻くことにした。
そしたら、小野寺のおとうさんが、そのチェーン脱着所にガーッと入ってきて、
俺の姿を見つけたようだ。
ちなみに、俺たちは小野寺さんを「おとうさん」と呼んでいたが、
小野寺さんは、誰のことも「あんちゃん」と言っていた。
とてもあんちゃんに見えないような歳の人でも、
小野寺さんより年下であれば、小野寺さんにとっては誰でも「あんちゃん」なのだ。
まぁ、歳だし、名前を覚えられないのが一番の理由みたいだが。
で、俺に、
「あんちゃん、秋田か?んで一緒に行くべ!」
と。
で、俺がワイヤーチェーンを巻いてるのを見て、
「ワイヤーで大丈夫かや?俺は鉄のチェーンで行くど!」
でも結局、俺はめんどくさいから、ワイヤーチェーンのままで行くことにした。
おとうさんは、鉄のチェーンで。
結局、俺もおとうさんのチェーン巻きを手伝うハメになったわけだけども。
バッチリ鉄チェーンを巻いたおとうさん、張り切って、
「俺、しんがりを行くからや!
前走ってけろ!」
2台しかいないのに、しんがりもなにも・・・。
仕方なく、俺が前を走ることにした。
走り出すと、48号線は想像以上の雪でかなり滑る。
ヘッドのケツをズルズル滑らせながら、騙し騙し走る。
だんだん、県境にある関山トンネルが近づくにつれて、勾配がついた峠道に。
うわー、最後の坂、登り切れるかや・・・。
そしたら、側道から、黄色い回転灯を回した、
除雪用のグレーダーが出てきそうになって、
ブレーキを踏んで減速しちゃったら、絶対にズルズルで上れなくなってしまうと思い、
「パパーッ!」とクラクションを鳴らしながら、パッシングをして回避。
あ、あぶねー・・・。
で、勢いつけて調子よく上っていた坂道も、
関山トンネル目前なのに、ちょっとだけ勾配がきつくなる地点で、
ついにスリップして上れなくなってしまった。
あーあ、空車のトレーラーだと、これだからイヤなんだよなー。
ホント、雪道には弱い。
やっぱり、鉄チェーンにしておけばよかったな・・・。
で、さっき、グレーダーがいたことを思い出し、
トンネルの中までグレーダーに引っ張ってもらうことにして、
グレーダーが上がってくるのを待っていた。
程なく、バックミラー越しに、黄色い回転灯が見えてきて、
「おっ!キタキタ!」
と、トラックから降りた。
そしたら!
すでにおとうさんのトレーラーが
グレーダーに引っ張られていた・・。
なんでー?
いやー、笑っちゃったねー。
鉄チェーンで、俺より滑りにくいはずだべやー。
で、グレーダーの運ちゃんが、
「ありゃー、アンタもかい。
先におやっさん引っ張ったあと戻ってくるから待ってろ。」
と。
で、俺の脇を通り過ぎていくときの、おとうさんのバツの悪そうな顔。
いやー、おかしかった。
かくして、グレーダーの運ちゃんに、トンネルの中まで引っ張ってもらって、
なんとか峠越えをしたわけだ。
その後、今度はおとうさんが前を走って、2台ランデブー。
途中、天気も変わって、道路に雪が無くなったから、
どこかでチェーンを外そうということになった。
で、おとうさん、おもむろに、
道路沿いのチェーン脱着所にガーッっと入ったわけだけど、
そのチェーン脱着所には雪がもっさり残っていて、見るからにヤバイ。
だから、俺はその脱着所には入らず、道路でチェーンを外した。
ふと目をやると、おとうさん、ワイヤーを持って、
よその知らないトラックに駆け寄っていって、
「あんちゃん、引っ張ってけろー。」
って言っている。
(ノ∀`)アチャー。
チェーンを外したら、スリップして脱着所から出られなくなったのだ。
その、よその運転手も苦笑い。
で、結局その、よその10トン車にワイヤーで引っ張ってもらって、
無事に脱着所から脱出。
いやー、天然ボケもここまで来るとすごいね。わははー。
でも憎めないキャラなんだよ。おとうさんは。
そんな、大マジメに身体を張った大ボケをかましてくれるお茶目なおとうさん。
さすがにもう引退しただろうなー。
今、何やってるのかな。
ラベル:トラック
アタシが運転手さんになったら、
こうなっていたのかなーと。
或いはもっと、かも〔笑い〕
やってる本人は大真面目だと思うんですけども・・・